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◇年間100冊読書日記◇趣味の読書の語り部屋

全く媚びることのない私小説、西村賢太の『どうで死ぬ身の一踊り』【読書屋!】

どうも、こんにちは!アリガテンです。

私の好きな作家のひとり西村賢太の『どうで死ぬ身の一踊り』を紹介します。

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西村賢太は2011年に『苦役列車』で芥川賞を受賞している作家です。彼の小説をちらりと読めばすぐにわかるのですが、かなり強烈な性格であり、この性格によって引き起こされた様々なことが私小説として描かれます。彼自身、私小説にしか興味がないというほどのこだわりっぷり。そして、普通の人間であれば恥であり他人には一切知られたくないようなことがどこまでも赤裸々に小説に落とし込まれているのが彼の作品の魅力といえます。

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 この『どうで死ぬ身の一踊り』も例に洩れず私小説であり、小説の主人公は著者となります。

これから読書をしてみようという方に私小説とはどのようなものか簡単に説明すると、作者の周りで起きたことなど作者の実際の経験を基に描かれた小説のジャンルのことをいいます。

この作品が私小説であるということを理解して読み始めるとおそらく衝撃を受ける方もいるんではないだろうか思う。というのも、西村賢太の私小説は彼のどこまでもダメな部分をとことん描く。それは、嫉妬・性癖・DV・コンプレックス等々限りがない。ここまで恰好をつけず小説の中に自分自身を投影できるのはプロフェッショナルと言わずにはいられない。

 

この小説は一貫して「藤澤清造」という明治から昭和初期の作家への憧憬を抱く作者の心境や周囲で起こることを描いている。作者は「藤澤清造」という作家に傾倒しており、彼の全集を出すことを予定し、彼に関する土地・人・モノと接触することであらゆる情報を収集する。その傾倒ぶりはすさまじく、彼に関わる書物の収集は当たり前で金に工面がつかなくても手に入れる。また、藤澤清造の命日には清造忌を催したり、彼の墓の隣に自身の墓を拵えたり、その心酔ぶりには枚挙にいとまがない。

 

"その清造には、<何んのそのどうで死ぬ身の一踊り>と云う晩年の詠句のあることが伝えられている。(中略)この一句には清造自身のもはや自爆するをも覚悟した、捨て身のひらき直りと無限の怨みが込められているが、底に流れる二律背反した諦観と無念は、今なお不滅のものと思われた。"

 

「藤澤清造」に関するエピソードを中心に関わってきた人たちに対する対応ぶりなどが一々浅ましく、作者の恥の部分が嫌というほど見えてくる。短気で暴力的、素直でなく厭味ったらしい。かといって自身の非を認めることなく言い訳ばかり。人間の嫌な部分を前面に装備し、それがどこまでも小説の中で主張される。

 

作者は中卒という学歴コンプレックスを持つ人物であるが、彼の文章を読むととんでもなく日本語の知識、文章力があることがわかる。漢字や日本語にそこそこ自信があっても読めない漢字・意味のわからない漢字がちょこちょこ出てきて学びにもなる。ここまでパワーのある筆力で重厚な物語をさくさくと読ませる力はすごいの一言。

もし、小説の新たな境地に足を踏み入れたい人がいれば西村賢太はとてもおすすめできます!!