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読書屋!BookBankどっとこむ

◇年間100冊読書日記◇趣味の読書の語り部屋

自転車でどこまでも。高校生の心情が描写される羽田圭介のロード小説『走ル』【読書屋!】

読書 書評

どうも、こんにちは!アリガテンです。

私が高校二年生の頃は、ようやく買ってもらった携帯電話でクラスメートや部活のメンバー、小中学校時代の友達とのメールが楽しくて仕方がなかった覚えがある。メアド交換をしてアドレス帳に友達のアドレスが増えていくのを眺めるだけでもいい気分だった。

メールの内容をいま見返すことがあったとしたら驚くほど無意味なものの羅列に見えるだろう。当時はそれがこの世の大事なもの全てだったとしても。

今日、紹介するのは羽田圭介『走ル』。ビアンキというロードバイクを手に入れた高校二年生がビアンキとともに自転車旅に出るロード小説です。

ロード小説といえば、以前、有川浩のロード小説をご紹介しました。

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作者の羽田圭介といえば、又吉直樹さんが『火花』で芥川賞を受賞した時に『スクラップ・アンド・ビルド』で同時受賞した方です。当時、異色な雰囲気を醸し出しながら多くのバラエティに出演していました。本書『走ル』は『スクラップ・アンド・ビルド』よりも前に書かれている。

 

高校二年生がビアンキというロードバイクで国道4号線を北上する。最初は、すぐ帰るつもりで、午前中の授業だけサボろうという気持ちでビアンキを漕いでいた。ビアンキがあまりにもよく走り、彼の気持ちも昂ってしまい、どんどん北上していく。

 彼が持っている携帯電話には、彼女や友人からのメールが入る。突然いなくなった彼を心配している友人たちには、自分がいまビアンキで自転車旅に出ていることを告げる。はやく帰ってこいといわれながらも彼は自転車を漕ぐことに、より遠くへ行くことに憑りつかれているように走る。彼女には嘘をつく。体調が悪いが故にデートに行けなくなったとかなんとか。

 この小説の特異であり、優れているところは、ロード小説に携帯(メール)という要素を上手く取り入れたことのように思う。東京の友人たちと自分が東京にいるのとは変わらない様で、いつものようにメールではやりとりをする。だが、実際は自分の体はより遠くに離れていっている。

 

彼は携帯の電源を切り続けメールに返信しないという選択肢もあったにも関わらず、メールに毎日返信していく。それは、東京の友人たちとの関係性を、より遠くに離れていく自分から離すことができない高校二年生の在る種幼さのようなものがうまく描写されているように思う。

 

高校二年生の繊細な人間関係と自転車を漕ぎ遠くへ行っている自分の2つの軸が絶妙な絡み合いが鮮明に見え、形は違えど私の高校生のときもこういうことってあったんだろうなと思わされてしまった。高校二年生の子供でもあり大人でもある部分の揺れをロード小説の形でうまくとらえているように思います。ぜひ、読んでみてはいかがでしょうか。