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◇年間100冊読書日記◇趣味の読書の語り部屋

<『イモータル』萩耿介>時空を超えて人の生き方を見つめる壮大な物語

どうも、こんにちは!

三度の飯より本が好きアリガテンです。

 

 

今日は萩耿介『イモータル』をご紹介します!

この小説は普段私が読まないタイプの小説で非常に新鮮で面白く読み進めることができました。

 

主人公は昔に兄をインドで亡くし、今は日本で不動産業を務める男。仕事に自信がなくうまくいかない日々を過ごしている中、兄が残していった『智慧の書』と呼ばれる本に引き寄せられて時空を超えた男の旅が始まる。

 

 

小説の物語は現代日本、ムガル帝国時代のインド、フランス革命期のパリと舞台を変えていく。高校生の頃に習った世界史のイベントが沢山でてきてちょっとワクワクします。ムガル帝国の皇子が書きあげた『智慧の書』がフランス革命期のパリで翻訳され、現代日本で兄が残した『智慧の書』。そして、兄がインドでどのようにしてなくなったかを明確にしたいと思い『智慧の書』に導かれる男。

 

この小説の特異なところは、全く関係のないはずの現代日本とムガル帝国時代のインド、フランス革命期のパリが『智慧の書』という一冊の本を巡り物語が繋がっていくことだ。どの時代にも『智慧の書』が書かれたこと、翻訳されたこと、存在することの意味を信じる男たちがおり、彼らの時代も環境も異なるにも関わらず、彼らはその本が記す内容に魅せられる。それは、人間が生きる意味、この世が存在する意味、そしてそれらの関係性を記し、人間が日々のつまらぬことに執着することがそもそも間違っていると説く。だが、彼らはその時代に辛酸を舐める立場の人間であり、『智慧の書』に記載されていることが崇高なものとわかっているが、周りの人間たちの理解は得られず苦渋の中を生きていかなければならない。

 

 

私たちが社会で生きる時、周りの人が持つ価値観というものに敏感になる必要がある時がくる。私には絶対的に正しいと思うことでも他者にとってはそうでないということが往々にしてある。その価値観のぶつかり合いに頭を悩ませることは多い。それを価値観が違うから、立場が違うから、と分かり合うことに妥協してしまうのは容易だが、最後までその価値観を貫き通しいかなる相手にも屈しないことは容易ではない。しかも、それがマイノリティだった場合、なおさらのことである。

 

 

この作品はそんな思いを持つ人々が『智慧の書』という支えのもと、価値観を貫きとおしていく。哲学・宗教を驚くほどの繋がりを持たせ場所・時代を越えて一つの物語として構成している。知識・教養レベルの高さを散りばめているにもかかわらずストーリーが面白いが故にページをめくるスピードは軽快だろう。

 

"ルソーは読んでいるだろう。覚えている言葉がひとつある。『下劣な人間は偉大な人物の存在を信じない、卑しい奴隷は自由という言葉を聞いてもせせら笑う』。意味するところはわかるだろう。本当の自由というものがいかに理解されにくいか。しかし自由な世になって初めて金が金を生むのだ"

 

周りには理解されなくとも貫き通すべき信念を貫き続けた男たちの時代を越えた物語を読んでみてはいかがだろうか。